販売残戸数が少ない大規模分譲地へ見学にいくと、どうしても気になってしまうことがひとつあると思います。それは「なぜこの住戸は売れ残ったのだろうか…」です。例えば、総分譲戸数が「20棟」で、すでに「19棟」の建売住宅が成約済の場合、なぜ最後のこの「1棟」は、他の19棟を購入した人たちに避けられてしまったのか?何か目に見えない理由が裏にあるのではないか?などと、深く勘ぐってしまいます。建売住宅が売れ残る「分かりやすい」理由については様々なコラムが色々解説している(例:相場より極端に高いから、陽当たりが極端に悪いから、間取りの使い勝手が悪くあわないから、近隣環境や立地等の位置関係が悪いから、成約したがしばらく後にキャンセルになった等)ので割愛し、本コラムでは大規模分譲地がゆえに「分かりにくい」”売れ残り”理由にフォーカスして解説していきたいと思います。
理由1 「特徴」が「異端」になるケース
理由2 立地等の優位性を活かせていないケース
理由3 売れた順番に影響を受けるケース
初めて建売住宅を見学される方でもパッと見て一瞬で分かるような「欠点」等を除外すると、上記3つの「他住戸や立地条件とのミスマッチ」によって”売れ残り”が発生していることがわかってきます。大規模分譲地の販売に携わってこられた大手ハウスメーカーの営業マンさんの解説を交えながら説明していきます。
目次
「大規模分譲地の建売住宅を購入される方は、いろんなタイプの方々がいらっしゃいますが、極端に”個性的なもの”を敬遠する傾向があるとは思います。」と話してくれたのは、大手ハウスメーカーで22年間建売住宅の販売を行ってきたAさん。
「例えば10棟建っていて、そのうち9棟が1階LDKで、1棟だけ立地や敷地形状の関係で2階LDKになっていたとしましょう。この場合、後者の2階LDKが先に売れるということはまずありません。
意図的に価格を安くすれば話は別ですが、他の住戸と全然違う間取りの建物が”ほんの少数”だけ存在していると、それらをパスして、先に”みんなと同じもの・近いもの”を検討しようとする傾向が強いですね。1~2棟の小規模建売住宅の現場でしたら、個性や特徴を求める顧客はいると思うのですが、大規模分譲地に対しては安心安全や統一感・一体感といった総合的ブランド力を求めていらっしゃるような気がします。」
「土地の評価額が高い南道路側の角地や、街の入り口のランドマーク的な住戸について、少し他住戸よりも差別化したプレミア感を演出する間取りを企画することがあるのですが、価格以外の理由でそういった住戸は”売れ残り”になることがよくあります。隣接の比較的特徴の少ない住戸が先に売れるということなんて多々あります。また、住宅設備についても同様でして、特定の住戸だけにとてもオープンかつデザイナーズ系の高級システムキッチンを採用して他住戸との差別化を図ろうとうすると、逆に敬遠される理由にもなります。」
Aさんが勤めるハウスメーカーは注文住宅が主力事業で、そちらでは2階LDKや奇抜なオデザインのオープンキッチンが好まれる傾向があるそうですが、大規模分譲地の建売住宅となると事情は異なるようです。
角地や目立つ場所のアイコニックな住戸が最後まで売れ残ることが多いのは結局”特徴”を出そうとメーカー側が努力した結果が分譲地内での”異端”とみなされて、住戸が数多くの中から選べる初期の段階では敬遠されてしまうのが大規模分譲地の特徴と言えるようです。でも他の住戸が売れて、比較対象がなくなると「新規で来場された方から急にお申込みがすぐに入ったりするんですよ!(前述Aさん談)」とのことです。
この2つめの”売れ残り”理由は、端的に説明すると「〇〇なのに、〇〇ではない」建物に発生しやすいと言えます。例えば「せっかく陽当たりが良い区画なのに、リビングに大きい窓がない。」とか、「ロケーションが悪い区画なのに、他の区画との価格差があまりない」などです。
購入者側が一般的に敷地条件や建物について当然のことのように「期待していること・認識していること」と逆の方向に向いてしまっていると、こういった状況に陥りやすいそうです。「南道路や角地を希望される方は、陽当たりがよく、家の中が明るいことを期待していますが、それなのに意外に建物の中が暗かったり、開口部が小さかったりする住戸だと、敬遠されがちです。また宅地開発の都合上、どうしても一部にできてしまう変形地や旗竿地の区画については、”訳アリ的な割安感があるはず”という認識が一般的にあるので、他の整形地区画とあまり差がない価格帯でそういった変形区画が販売されていると、大部分がパスされてしまいがちです(Aさん談)。」
高級・高額を売りにしているメーカーハウスが安っぽく見えるとそれも”売れ残る”理由になるそうで、こういった理由での”売れ残り”が発生しないように細心の注意を払った商品企画を心掛けているとAさんはおっしゃっていました。
「これが最も分かりにくい・見えにくくて、お客様に売れ残り理由を説明するのが一番難しいです。」と前述のAさんが説明に瀕するのがこの”売れた順番に影響を受けるケース”です。
このケースに当てはまる”売れ残り”住戸は、他の成約済住戸と殆ど条件は同じで、金額も高くも安くもなく、間取りも住宅設備も”異端”な面がないうえに敷地の特徴も十分活かせているようなごくごく普通の建売住戸であることが大半だそうです。なので、購入検討者は何回見学しても、何回営業担当の方に”売れ残り”の理由を訪ねても、すっきりとした理由にたどり着くことができないそうです。
「本当に単純な話しで、何か理由のある”売れ残り”住戸というよりは、たまたま順番で最後に売れることになってしまった住戸…ということです。10名、購入希望者がいて、11棟の条件がほぼ同じ建売住宅を販売していたとしたら、どうしても1つは売れ残ります。それがたまたまその住戸だったというわけです。おそらく100点満点中、他の住戸はすべて80点で、当該住戸は79点だったとかそういうレベルです。でも、そういった住戸は、他が全部売れさえすれば、成約済の住戸と同様に、すぐに売れます。ただ、確かに見学に来られた方にすれば、”なんでこれが売れ残ったのだろう”とずっと疑心暗鬼になるお気持ちもわかりますが…」
このケースにおいては”売れ残り”というよりも、”売れる順番が一番最後になった物件”という表現の方が正しいようです。動きの早い人気分譲地でもこういった住戸はよく発生するそうです。
Aさんはインタビューの最後にこんなことを余談で言っていました。
「どこの分譲地を担当しても、やはり最後の1棟の販売は苦労します。そしてその住戸が結果的に最も多くお客様をご案内する住戸になるケースが多いので、ご案内している私にとってはもっとも愛着を抱く住戸になります。成約頂き、お客様にご入居頂いた後も、ずっとその住戸のことは気にかけていたりします。”売れ残り”住戸にはそういう売主側の”愛情”がこもっていたりしますよ。」